新生ディープ・パープルの胎動:ライブでの化学反応
イアン・ギランとロジャー・グローヴァーを迎えた新生ディープ・パープル(マークII)は、スタジオでのアルバム制作に先駆け、精力的にライブ活動を行います。ステージ上で繰り返される即興演奏やメンバー間のインタープレイは、彼らの音楽に新たな生命を吹き込みました。特に、リッチー・ブラックモアの奔放なギターソロとジョン・ロードの重厚なハモンドオルガン、そしてイアン・ギランの圧倒的なハイトーン・シャウトは、観客を熱狂させ、バンドの新たな方向性を明確に示していました。
この時期のライブ音源は、彼らがスタジオ録音とは異なる、より生々しく、より攻撃的な側面を持っていたことを証明しています。それは、来るべきハードロック時代の幕開けを予感させるものでした。
『コンサート・フォー・グループ・アンド・オーケストラ』:ロックとクラシックの融合、その到達点
マークIIラインナップとして最初に取り組んだ大きなプロジェクトは、意外にもジョン・ロード主導によるクラシック音楽とロックバンドの共演アルバム『コンサート・フォー・グループ・アンド・オーケストラ (Concerto for Group and Orchestra)』でした。1969年9月24日、ロイヤル・アルバート・ホールでロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と共演したこのライブは、大きな話題を呼びました。
この試みは、ジョン・ロードの長年の夢であり、ディープ・パープルの音楽的多様性を示すものでしたが、一方でリッチー・ブラックモアは、バンドがよりストレートなハードロック路線へ進むことを強く望んでいました。このコンサートは、ある意味で第一期ディープ・パープルの音楽的探求の集大成であり、同時に新しい時代への転換点とも言えるイベントでした。
『イン・ロック』:ハードロックの金字塔
クラシックとの共演という壮大なプロジェクトを終えたディープ・パープルは、ついに彼らの本領を発揮するアルバム制作に着手します。1970年6月にリリースされた『ディープ・パープル・イン・ロック (Deep Purple in Rock)』は、ハードロックというジャンルの誕生を告げる記念碑的な作品となりました。
アルバムジャケットには、アメリカのラシュモア山に彫られた大統領像を模して、メンバー5人の顔が彫刻された衝撃的なデザインが採用されました。そして、そのジャケットに負けないほどの強烈なサウンドが、アルバム全編にわたって展開されます。
オープニングを飾る「スピード・キング (Speed King)」の激しいリフとシャウト、続く「ブラッドサッカー (Bloodsucker)」のヘヴィなグルーヴ、そして7分を超える大作「チャイルド・イン・タイム (Child in Time)」の静と動のコントラストとイアン・ギランの絶唱は、当時のロックシーンに衝撃を与えました。このアルバムで、ディープ・パープルは完全にハードロックバンドとしてのアイデンティティを確立し、レッド・ツェッペリン、ブラック・サバスと並び称される存在となったのです。
シングルヒット「ブラック・ナイト」
『イン・ロック』のレコーディングセッション中に、レコード会社からの要望で急遽制作されたシングル曲が「ブラック・ナイト (Black Night)」です。ブルースを基調としながらも、キャッチーなリフとメロディを持つこの曲は、全英シングルチャートで2位という大ヒットを記録し、バンドの人気をさらに押し上げました。アルバム未収録ながら、彼らの代表曲の一つとして、今もなお多くのファンに愛されています。
次回予告
第5章では、『イン・ロック』の成功を受けて制作された次なる傑作『ファイアボール』と、バンドが世界的な成功を収めていく中でのメンバー間の緊張関係について触れていきます。ハードロックの頂点を極めようとする彼らの次なる一手とは? ご期待ください!