ディープ・パープル物語 第5章:『ファイアボール』と栄光の影

『イン・ロック』の衝撃と次なる一手

前作『イン・ロック』でハードロックバンドとしての地位を不動のものとしたディープ・パープル。その成功は凄まじく、彼らは一躍トップバンドの仲間入りを果たしました。しかし、その成功は同時に、バンドに大きなプレッシャーと、次なる作品への期待という重荷をもたらします。

メンバーは休む間もなくツアーと作曲活動に追われ、その中で新たなサウンドを模索し始めます。『イン・ロック』のストレートなハードロック路線を踏襲しつつも、より多様な音楽性を取り入れようという試みがなされました。

 

『ファイアボール』:実験と進化の融合

1971年7月(アメリカでは9月)、ディープ・パープルはアルバム『ファイアボール (Fireball)』をリリースします。このアルバムは、前作の成功を受けつつも、安易な模倣に走ることなく、新たな音楽的領域へと踏み込んだ意欲作となりました。

アルバムタイトル曲「ファイアボール (Fireball)」は、イアン・ペイスの疾走感あふれるドラムソロから始まる、まさに火の玉のような勢いを持つナンバーです。一方で、「ストレンジ・カインド・オブ・ウーマン (Strange Kind of Woman)」のようなキャッチーなロックンロールや、「誰かの娘 (Anyone's Daughter)」のようなカントリー調の楽曲、そしてプログレッシブな展開を見せる「フールズ (Fools)」など、アルバム全体を通して多彩な音楽性が展開されています。

 

 

この多様性は、バンドの音楽的懐の深さを示すものでしたが、一部のファンや評論家からは「散漫」との評価も受けました。しかし、『ファイアボール』は全英アルバムチャートで1位を獲得し、バンドの勢いが依然として衰えていないことを証明しました。

 

栄光の裏に潜む緊張

世界的な成功を収め、ハードロックの頂点へと駆け上がるディープ・パープルでしたが、その華やかな活動の裏では、メンバー間の緊張関係が徐々に高まっていました。

特に、バンドの音楽的主導権を握りたいリッチー・ブラックモアと、より自由な表現を求めるイアン・ギランとの間には、音楽的な意見の対立だけでなく、個人的な確執も生まれ始めていました。過密なツアースケジュールとレコーディング、そしてメディアからの注目は、彼らの心身を疲弊させ、バンド内の人間関係に影を落とし始めていたのです。

ジョン・ロードやイアン・ペイス、ロジャー・グローヴァーといった他のメンバーは、バンド内のバランスを取ろうと努めますが、一度生じた亀裂は容易には修復できませんでした。

 

次回予告

第6章では、バンド内の緊張を抱えながらも、彼らがハードロック史に燦然と輝く傑作『マシン・ヘッド』を生み出すまでのドラマティックな道のりを追います。スイス、モントルーでの伝説的なレコーディング秘話とは? ご期待ください!

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