ディープ・パープル物語 第10章:『嵐の使者』とリッチーの苦悩

『紫の炎』の成功と音楽性の深化

前作『紫の炎 (Burn)』で、デヴィッド・カヴァデールとグレン・ヒューズを迎えた新生マークIIIラインナップは、ハードロックにファンクやソウルの要素を融合させ、見事な成功を収めました。バンドは再び世界の頂点に立ち、その勢いは留まることを知らないように見えました。

成功を受けて、バンドはさらにその音楽性を深化させていきます。特にグレン・ヒューズの音楽的影響力が増し、彼のルーツであるファンクやソウルミュージックの色彩が、バンドのサウンドにより強く反映されるようになっていきました。デヴィッド・カヴァデールもまた、ブルージーな歌唱に磨きをかけ、バンドの新たな方向性を後押しします。

 

アルバム『嵐の使者 (Stormbringer)』:ファンク/ソウルへの傾倒

1974年11月(イギリスでは12月)、マークIIIとしてのセカンド・アルバム『嵐の使者 (Stormbringer)』がリリースされます。このアルバムでは、前作以上にファンクとソウルの要素が前面に押し出され、ディープ・パープルの音楽性は大きな転換期を迎えました。

アルバムタイトル曲「嵐の使者 (Stormbringer)」は、依然としてハードロックの骨格を保ちつつも、よりグルーヴィーで洗練されたアレンジが施されています。しかし、アルバム全体としては、「ホールド・オン (Hold On)」や「ユー・キャント・ドゥ・イット・ライト (You Can't Do It Right (With the One You Love))」といった楽曲に代表されるように、ファンキーなリズムとメロディが際立ち、従来のディープ・パープルが持っていたヘヴィネスは後退した印象を与えました。

 

 

 

ジョン・ロードもシンセサイザーを多用し、サウンドに新たな広がりを加えています。イアン・ペイスのドラミングも、よりファンキーなグルーヴに対応したものへと変化していきました。

 

リッチー・ブラックモアの不満と孤立

この音楽性の変化を最も快く思っていなかったのが、バンドの創設メンバーであり、ギタリストのリッチー・ブラックモアでした。彼が理想とするハードロックサウンドは、よりストレートで攻撃的なものであり、ファンクやソウルへの傾倒は彼の音楽的嗜好とはかけ離れたものでした。

特に、彼が作曲したにもかかわらず、他のメンバーの反対でアルバム収録が見送られた楽曲(後にレインボーで「スティル・アイム・サッド」として発表されることになるロニー・ジェイムス・ディオとの共作「ブラック・シープ・オブ・ザ・ファミリー」のカバー)があったことなどが、彼の不満を増幅させました。

バンド内で音楽的主導権を失いつつあると感じたリッチーは、次第に孤立感を深めていきます。彼のギタープレイは依然として冴えわたっていましたが、その表情にはどこか影が差し、ステージ上でのパフォーマンスも以前のような奔放さが失われつつありました。

 

迫り来る脱退の時

『嵐の使者』は商業的には成功を収めましたが、リッチー・ブラックモアの心は既にディープ・パープルから離れつつありました。彼は自身の理想とする音楽を追求するため、新たなバンドの結成を構想し始めていたのです。

このアルバムは、マークIIIラインナップの音楽的多様性を示すと同時に、バンドの創設者の一人であるリッチー・ブラックモアの苦悩と、来るべき脱退を予感させる作品となってしまいました。

 

次回予告

第11章では、ついにリッチー・ブラックモアがディープ・パープルを脱退し、自らのバンド「レインボー」を結成する経緯と、残されたメンバーがギタリスト不在という最大の危機にどう立ち向かうのかを追います。ハードロックの巨星の分裂は避けられないのか? ご期待ください!

 

嵐の使者【35th アニヴァーサリー・エディション:SHM-CD】 - ディープ・パープル
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