バッハの曲には心惹かれるものがいっぱいあります。
音楽的なものもあるのですけど。
どちらかといえば、バッハの魅力は演奏者にしかわからないところが多くて。
それはいくらバッハの音楽を聞いていてもわからないんですよね。
演奏者にしかわからないものなど、音楽の本質ではないとも言えるのですが。
でも、そういったかくれたものが楽しいのがバッハの魅力の大きな要素でしょうね。
でも複雑になればなるほど、当然ながら演奏も難しい。
そして豪快に演奏するには、音楽は単純な方がいい。
単純にするとつまらなくもなりやすい。
なかなか「これはいい!」というものがなくて。
300年ほども経過した曲ばかりなので、自分に合った曲なんか簡単に見つかるだろうとも思うのですけど。
自分の場合、録音ものも含めて他人の演奏なんてほとんど聞いたことがない。
聞かないから自分が弾かない限り曲の内容を知らないわけで。
中学生の頃から好きなのがロ短調パルティータという組曲です。
この序曲に特徴があって。
おおらかなテンポでおごそかとも言えるゆったりとした王朝風と言った感じの音楽が始まって。
それが途中で一転して速いテンポでの音楽を始める。
そして最後にまた王朝風ゆったり音楽で終了する。
この形式の音楽を当時は「フランス様式」と呼んでいたので。
このロ短調パルティータのこの最初の曲を全体の名称として「フランス風序曲」と呼んでいるのです。
実際には10曲近い音楽の曲集ですけどね。
そしてこの序曲部分の速いテンポのところ。
バッハですから当然とも言えるフーガになっています。
3声のフーガ。
フーガと言ったら4声が定番で正式と思われがちですけど。
バッハのチェンバロ用フーガの名曲には3声のものもけっこうあるのです。
かなり若い頃からそのフランス風序曲にはまって。
ヘタな頃からはまってしまうと、デメリットが多いのです。
ほんとはもっと素晴らしい曲になるはずなのに、中途半端な出来上がり。
本人は「できあがった」と思っているので、綿密な練習のし直しをしない。
だからほんとは完成していない。
いずれ、自分も取り組み直したい曲ですが。
そしてそして。
バッハの有名なチェンバロ曲集は、曲集としていくつかあって。
●フランス組曲(6つの組曲)
●イギリス組曲(6つの組曲)
●平均律曲集(24の前奏曲とフーガ×2巻)
●パルティータ(6つの組曲)
たぶん一通り全部やったと思います。
が!
どれもこれもヘタなうちにやったもんだから。
どれひとつとしてよく覚えてないくらい。
特にパルティータ。
まったく覚えてないかと。
それが。
去年でしたっけね。
パルティータ2番に出会い直して。
ほかの5つのパルティータもざっと弾き比べましたけど。
ハ短調の2番が今の自分には最も魅力的で。
特にこの序曲。
フランス風序曲の変形。
まずゆったりした曲調。
どちらかといえば短い部分です。
そしてそのあと、とてもさみしくて魅力的なシンプルな独白とも言える音楽が始まるのです。
ここがとてもなんとも、とにかくぎゅっと心を鷲掴みされてしまう。
こん部分がけっこ〜な長さがあるのですが。
それが終始とみせかけて。
そこから速いテンポのフーガが始まり。
一気に弾きあげていき、突如として止まって。
ほんの1小節でフランス風序曲のゆったり部分を復活させてあっさりと終える。
この曲のすばらしいところ。
そのフランス風ゆったり部分がシンプルなのもいいのですが。
その後のさみしい独白部分とフーガ、これがたったの2声でできているのです。
寂しい部分は2声だから余計に淋しさが際立つ。
その上、2声のフーガ。
2声の曲をフーガとは言えない気もするのですが。
みごとです。
2声には思わせないし。
雰囲気としては十分に4声に思わされてしまうし、3声あれば十分に豪華になるのは先のフランス風ロ短調序曲や半音階幻想曲のフーガでも実証されていますけど。
2声で豪快に感じさせる音楽は、たぶんこれが最高峰となるでしょうね。
余談になりますが。
1声だけのフーガなんて、ありえないものをバッハは成功させてますけどね。
話を元に戻して。
このハ短調パルティータのこの序曲。
シンプル過ぎて。
これで思っている通りの淋しさと豪快さを演奏できる、はずなのですが。
シンプルすぎる。
シンプル過ぎて逆に難しい。
音が多すぎる曲は多すぎる音に隠してヘタをカモフラージュさせることができるのですけど。
シンプル過ぎて隠しようがない。
たぶん練習を始めて、つい先月までまったく完成しない。
いくらやってもヘタが隠れない。
基礎トレ方法を変えて。
それが当たったらしいのです。
ほかのショパンやらラフマニノフにまともに取り組み始めたのも、それが当たりの基礎トレとなったらしく。
このハ短調パルティータの序曲、かなり理想にちかづいてきました。
暗譜なんてあたりまえのことですけど。
この曲全体を(ほかのショパンやラフマニノフも)、すべて目をつぶったまま、つまりひとつひとつの音すべてを「いまどの鍵盤を弾いている」という意識も込みで弾けるようになってきました。
自分の場合、そこまでやってやっと人並みって感じなんでしょうね。
それでもまだ完璧にはならんもんなぁ。